多くの人が悩む便秘。
できれば薬に頼らず、自力で排出したいと思う方も多いのではないでしょうか。
介護の現場では日常的に便の問題に向き合っていますが、私は高齢者ばかりでなく、一般の方々に応用できることも多いのではないかと思っているのです。
高齢者の場合、他の病気の治療薬を飲んでいる方も多いため、あまり薬を増やすのは望ましいものではありません。
まずは薬を使わずに排出する方法がいくつかあるのです。
高齢者施設では、ご自分でできない方も多いので介助が必要なのですが、そこのアナタ。
アナタには、ご自分でできる方法をいくつかご紹介しますので、試してみてください。
どんな時に便秘になりやすいのか
便秘は単に排泄の問題というより、食事や運動、生活のしかたなど、広い範囲にわたり問題がある場合が多いです。
●食事の問題
水分不足・食事時間が不規則・摂取量が少ない(高齢・ダイエット)
●生活の仕方の問題
運動不足・寝たきり状態・閉じこもり状態・規則正しい排便ができず、便意があっても我慢しがち
●環境の問題
トイレが寒い・プライバシーが守れない・落ち着いてできない
●精神的な問題
心配や不安がある・寂しい
●下剤の濫用
よく言われるように、食物繊維の摂取は排出を助けるための手段の一つです。
「食物繊維の摂取量が少ないから便秘になる」というのはちょっと違う気がします。
それよりも水分不足や運動不足の要因の方が大きいように思います。
シニアはさらに筋力不足を補う必要がありますね。
便秘の種類
便秘には腸の病気による「器質性便秘」と腸の動きや環境が要因の「機能性便秘」があります。
ここではそのうちの機能性便秘についてお話しましょう。
機能性便秘の種類
原 因 等 | 症 状 等 | |
弛緩性便秘 | 加齢や運動不足による腸の緊張低下や筋力低下、食物繊維の不足 | 大腸のぜん動運動が低下することで便が長時間排出できず、水分が吸収されて便が硬くなる |
直腸性便秘 | 便意を我慢する習慣等のために、便意を感じる神経が衰えている | 直腸に便があるにもかかわらず、排便反射が弱く、便意を催さない |
痙攣性便秘 (ストレス性便秘) | ストレスが関係していることが多い | 大腸がけいれんを起こして狭くなるために、便が通過できないタイプで、腹痛や腹部不快を伴う コロコロ便や、下痢と便秘を交互に繰り返すことがある |
実際には2つ以上のタイプを併せ持つことが多いです。
薬を飲んで便秘になることもある
さらに付け加えると、薬の副作用でも便秘が起こることがあるんです。(薬剤性便秘)
咳止め・降圧剤・利尿剤・抗生物質・痛み止め・貧血剤・抗コリン薬・抗がん剤・糖尿病薬・向精神薬等、意外に多いのですよ。
薬をもらう時についてくる「お薬情報」で副作用を確認してみてください。
副作用には個人差もあり、必ず起こるものでもありません。
ただ先にも書いたように、複数の薬を服用することの多い高齢者には副作用も出やすいです。
数日間服用するだけの薬なら服用を止めた後は解消されるので大丈夫ですが、持病などで常用している薬にもあるのが困ったところ。
でも病気の治療をするために副交感神経を抑えなければならず、その副作用で便秘、のようにやむを得ないこともあるのです。
まずは病気を治すための薬はきちんと飲むことが先決。
その上で食物繊維や水分を摂る、適度な運動をする等の基本的なことや、以下にあげる方法を行うのが良いと思います。
薬を使わない便秘解消のしかた
日頃から食物繊維を摂ったりこまめに水分を摂ったり、ヨーグルトやオリゴ糖などで腸内環境を整えましょう。
十分な睡眠を取り、適度な運動をしましょう。どんな運動でも良いのです。
それでも便秘になってしまったら、
①おなかを温める
入浴後など、体が温まった時に出ることが多いです。
もし何らかの理由で入浴できない場合は、蒸しタオルで腰背部を温める方法があります。
<用意するもの>
スポーツタオル2枚・バスタオル1枚・ラップ
・スポーツタオルを濡らして絞り、ラップをして1枚につき600Wレンジ1分半ほど加熱。
腕の内側に当ててみて気持ちが良ければOK。熱すぎる場合は広げて1~2度振り、冷ます。
・二つ折りにして2枚を重ね、腹ばいに寝て腰背部にのせる
・ラップをかけ、バスタオルで覆って上から押さえ、体に密着させる
・約20分温める(その間にもし冷めたら交換する)
②下腹部を”の”の字マッサージ
昔小学校で習った大腸の位置を思い出し、大きく”の”の字を書くようにマッサージしてください。
③軽い運動をする
ウォーキング時に下腹を意識したり、ストレッチをするなどでも違ってきます。
屋外で運動ができない時は、
・足を投げ出して座り、上体を前に倒す前屈運動をする(膝が浮いてもOK)
・仰向けに寝て両膝を立て、腰を上げたりおろしたりする
・仰向けに寝て両手で両膝を抱え、胸の方に引き寄せる
・同様に、片膝ずつ胸の方に引き寄せる
・おなかの上に両手をのせ、手を押し上げるようにゆっくり深呼吸する
(簡単な腹筋運動。腹筋を鍛えることで腹圧が高まります)
・寝たまま腰を左右に揺らす(金魚体操)
④規則正しい排便誘導
なるべく朝食後などの決まった時間に、便意の有無にかかわらずトイレに座る
食物が胃に入ると「胃・結腸反射」が起こり、(大腸=結腸と直腸を合わせた呼び名です)便を送り出して排泄しようと動き始めるのです。
腸のぜん動運動はリラックスしている時に一番活発になるのですが、朝は眠りから覚めたばかりでまだリラックス中。夜に向かうにつれ、ぜん動運動は弱くなっていきます。
胃は空っぽで、その日初めての食事は昼食・夕食に比べて刺激が強く、胃・結腸反射も強くなると言えます。
このタイミングを逃す手はないですね。
排泄できる状態にあれば、我慢する必要がないので、肛門括約筋も緩めやすいです。
すぐには出なくても、生活リズムとして取り入れることをおすすめ。
⑤便意を我慢しない
直腸にある程度便がたまると、その刺激が直腸から脊髄を経て大脳まで伝わり、便意を感じます。
便意がないと排便はできません。
便意は15分程度で感じなくなるので、我慢しないこと。
せっかく便意が起こっても我慢してしまい、夜に向かうにつれぜん動運動が弱くなっていくとしたら…。
便秘になりやすくなるのがわかりますね。
⑥トイレは前かがみで
直腸はまっすぐ肛門とつながっているのではなく、いったん体の後部に回り込んだ後、ほぼ90度の角度をつけて肛門につながっています。
この角度を「直腸肛門角」といいます。
寝たきりの人が寝たまま排便がしにくいのは、精神的な理由の他に、この角度に便がひっかかって出にくいためなのです。
特養などでは、これらのことを考え合わせ、寝たきりの方もトイレに座っていただくところがあります。
直立の時や寝ている時は直角ですが、前かがみになるとこの角度が約120度に広がるので、便が出やすくなるのです。
⑦肛門を意識的に開いたり締めたりする
普段は意識することもなく、排便時には自然に開閉している肛門括約筋。
肛門を緩めていきめば出そうなものなんですが…。
「いきむ」のは腹圧をかけることで、これも有効なのですが、肛門を緩めっぱなしでいきむよりも
意識して肛門を緩めたり締めたりする刺激を与えると、より効果的です。
個人的には左右の足の付け根にこぶしを挟み、前かがみになって肛門を「半開き」にする感じでいきむと、一番効果的な気がしてます。
(例えがヘンですが、ホースで水を撒く時に口を抑え気味にするような感じ)
⑧ストレスの解消
ストレスや緊張状態が続くと胃腸の働きが鈍るため、便秘や下痢になったりします。
生活全体を振り返って、ストレスの原因を除くことが望ましいですが、これもなかなか難しい問題ですよね。
リラックスできる時間を持つ、散歩をする等で気分転換を図り、精神的なケアをしましょう。
ストレス性便秘には特に有効です。
ちなみに、ストレス性便秘は腸がけいれんし弱っていることが多いので、消化しづらい食物繊維を摂ることは逆効果です。
薬剤使用の場合は相談を
まったく薬を使わずに排出できれば嬉しいですが、そうもいかない場合も多いものです。
便がどこで停滞しているのか等便秘のタイプもいろいろで、それによって有効な薬が異なります。
ドラッグストアでよく見かけるのが刺激性便秘薬です。連続して使い続けるうちに量を増やさないと効かなくなることもあるので、注意が必要。
痙攣性便秘の方が腸を刺激する薬を服用してはかえって悪化しますし。
自己判断ではなく、お医者さんか薬剤師さんに相談することをおすすめします。
状態の変化によって種類や量を調整してもらえます。
以下は処方箋によってもらう薬の名前ですが、参考になれば。
種 類 | 主成分/(商品名) | 効 能 | メリット/デメリット |
刺激性下剤 植物性 合成薬 | ・センノシド(センノサイド) ・センナ (アローゼン/センナ末) ・ダイオウ(ダイオウ末) ・フェノバリン ・ビスコルファート (ラキソベロン/シンラック) | 腸を刺激して蠕動運動を起こし、水分の吸収を抑制して便通を促す | ・効き目を実感しやすい ・お腹が痛くなることがある ・効き目が現れるタイミングがわかりにくいことがある ・習慣化するリスクがある |
刺激性下剤 | ・ジオクチルジソジウム スルホサクシネート・カサントラノール複合材 (ビーマス/ベンコール) | 水分を浸透させて便を柔らかくする成分と腸管のぜん動を促す成分の合剤 | ・効き目を実感しやすい ・お腹が痛くなることがある ・軟便や下痢になることがある ・習慣化するリスクがある |
非刺激性下剤 | ・酸化マグネシウム (カマ/マグミット) ・水酸化マグネシウム (ミルマグ/スイマグ) | 腸に水分を集めることで便を柔らかくし、排出しやすくする | ・お腹が痛くなりにくい ・習慣化しにくい ・効き目が現れるまで時間がかかる(即効性はない) ・心臓や腎臓に持病がある人は服用に注意が必要 ・併用注意薬が多い |
座 薬 | ・炭酸水素ナトリウム (新レシカルボン /インカルボン) | 結腸や直腸に作用し便を排出する | ・即効性がある ・副作用が少ない ・お腹が痛くなることがある ・習慣化するリスクがある ・使用後おならが出やすくなる |
浣 腸 | ・グリセリン | 直腸の粘膜に直接刺激を与え、ぜん動運動を促す 便を柔らかくし、滑りを良くして輩出しやすくする | ・即効性がある ・赤ちゃんでも使えるものがある ・お腹が痛くなりやすい ・習慣化するリスクがある |
にっちもさっちもいかなくなったら、最後に奥の手
最後に私の経験した便秘症状と対処についてお話します。
若い頃は生活習慣のせいで、朝に出ないとか2~3日に1度ということがありましたが、朝食をきちんと食べるようになってからはそういうこともありませんでした。
食物繊維や水分も意識して摂るようにしたので、たまに便秘になるのは夜勤明けの睡眠不足の時くらいで、その後によく眠れば治ってましたし。
ところが仕事を辞めてから、便秘になる頻度が上がってしまったのです。
同じように生活しているつもりでも、行動が変わっていたのですね。
それまで快調だったのでつい、(ちょっと忙しい、今でなくても)と軽く考えていたのだと思います。
ある日心臓が気持ちが悪いほどドキドキするので測ってみると、血圧が高くなっていました。
普段高血圧ではないのに。かと思えばしばらく後には低血圧。
血圧が乱高下していて時々吐き気もする…。
なんの病気かと不安になりましたが、しばらくすると治まりました。
おなかの張りや腹痛は全くなかったのです。
この日は土曜日で、週が明けたら受診しようと思っていたのに、火曜日に再び動悸が起こるまで見送ってしまいました。
思いを巡らせてやっと便が出ていないことに気が付いたのです。
合計何日出ていなかったのやら。
上のタイプ別で言うと、弛緩性便秘と直腸性便秘のコラボ。
そのころ飲み始めた薬の副作用も拍車をかけたようです。
もらっていたお薬情報に、しっかり副作用便秘、と書いてありました。
介護職なので、知識としては嘔気も便秘のサインと「知って」いたのです。
でも職場では毎日入居者さんの排便チェックをしており、事前に対処できたので実際にはそういった訴えを聞く機会はありませんでした。
そしていざ自分の時には、まったく気づかなかったのです。
それから下剤を飲みましたが案の定まったく効果なし。
便意は起こっても、出ないんです。
もう硬くなってしまった便が、かたまりになって出口を塞いでいる。
①~⑧までで、この時点でまだ試せることをやってみた結果、にっちもさっちもいかないので最後の手段は「摘便」。
医療行為なので介護士はできないのですが、フタをしている便だけでも自分で取り除けないかと、薄いプラスチック手袋をはめ、見よう見まねで試みましたが。
自力ではコツがわからず、あきらめて翌日病院でお願いしました。
腸はデリケートな粘膜なので、慣れない者がやると傷つける可能性があるため、しろうとが無理にしない方が良いのです。
さすがに看護師さん。
でも肛門からせいぜい4㎝くらいなのに、お腹中かき回されたような感覚。
思わず息を止め、うめくことに。
フタをしていた便を取り除いてもらった後は、自力で出せるようになり、帰宅してからも何度もトイレに通いました。
勤めていた特養で摘便を受ける入居者さんの介助に入ることがありましたが、「こういう感じなのか」と実感した次第です。
下は摘便に要した点数と費用です。
日頃から食物繊維や水分を摂っていても、便秘になることがわかりました。
その後も時々便秘になりますが、これほどまでにならないよう、気を付けています。
なるべくなら①~⑧の方法で成功できたら良いですね。
過去数日間を思い返し、少なくとも「あ、運動不足だ」「睡眠不足かも」と見当がつくようになりました。
どうぞ試してみてください。
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