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認知症の定義とタイプ別特徴・判断のポイント

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認知症とは、「意識は保たれているが、脳に病変を生じたために、認知機能が持続的に低下し、生活に困難をきたした状態」のことをいいます。

米国精神医学会の診断マニュアルでは、「独居生活を営むには手助けが必要なレベルにまで認知機能が低下した状態」としています。

認知症テストの「点数」で決まるという訳ではないのです。

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認知症の判断のポイント

簡便に評価するテストとしては「改訂長谷川式簡易認知症審査スケール」等がよく使われています。

時計の文字盤の描画や立方体の模写等もよく使われます。

病院で臨床診断される場合は、いくつかのステップを踏みますが、実際には5分ほど会話すれば、その人が認知症かどうか、ある程度判断できるそうです。

①困ること家族が困っているのに、本人が「困ることはありません」と言えば、9割以上が認知症
②最近のニュース「最近世の中でどんなニュースがありましたか?」と尋ね、「○○がありました」と具
体的なイベントが出れば概ね認知症でなく、「夜は早く寝ますから」「NHKしか見ませ
ん」等、文脈が変な言い訳であれば認知症が疑われる
③振り向き徴候「お子さんは何人ですか?」等と尋ねた時に、「2人だっけ?」等と家族の方を振り向
いて確認や助けを求める振り向き徴候も、アルツハイマー型認知症の特徴
④ジェスチャー模倣が
 苦手になる
影絵のキツネやハトの形を手で模倣させると、ハトの模倣を認知症の7割が失敗する 
20秒ででき、認知テストらしくなく、スクリーニング(早期発見)に役立つ
「認知症の判断のポイント」  群馬大学大学院 山口晴保教授による

認知症の本質は、自分の認知機能の状態や行動を客観的に判断することが困難になることにあると言えます。

単に記憶力が悪くなるとか、何かの行動ができなくなるという障害だけでなく、自分の認知機能が低下していること自体への認識が甘くなり、そのことを問題視しなくなります。

その結果、受診や介護の受け入れを拒否するようにもなるのです。

タイプ別認知症の特徴

認知症には原因疾患があります。

認知症の代表であるアルツハイマー型や、レビー小体型、前頭側頭型は変性疾患と言われ、特定のたんぱく質が脳に多量に蓄積して認知障害を引き起こし、進行性の経過をたどります。

脳梗塞や脳血流低下などが原因で起こるのが血管性認知症です。

認知症の原因疾患は特徴的な症状を示すため、これらのタイプ別症状チェックリストもあります。

認知症がどのタイプかという診断は、基本的に症状に基づいて行なわれます。

割合としては、アルツハイマー型認知症と血管性認知症で認知症の大部分を占めています。

「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」 平成23年度~24年度より

アルツハイマー型認知症

一口にアルツハイマーと言いますが、厳密にはアルツハイマー病とアルツハイマー型認知症が使い分けられます。

アルツハイマー病は認知症発症の20~30年前から始まり、脳にβ(ベータ)たんぱくとタウたんぱくの異常な蓄積を引き起こします。

脳の神経細胞が壊れ、記憶をつかさどる海馬から萎縮が始まり、徐々に脳全体に広がります。

20年間ほどは無症状ですが、その後5年ほどのMCIと呼ばれる時期があり、その後認知症を発症して「アルツハイマー型認知症」と呼ばれるようになります。

MCI(軽度認知機能障害)とは こちら

切り替わるのではなく、全期間を通してアルツハイマー病といいます。

もの忘れが初期症状であり、主症状でもあります。

記憶障害から始まり、状況判断が困難になる見当識障害→運転が危険になる注意障害→段取り良く行動ができなくなる実行機能障害と進行していき、トイレの使い方がわからなくなる等の失行も見られるようになります。

記憶障害・見当識障害・注意障害・実行機能障害とは こちら

こうした「危機の状態」に対して周囲から暖かい支援が得られないと、うつや自己防衛のためのもの盗られ妄想や暴言・暴力などの行動・心理症状(BPSD)を引き起こします。

レビー小体型認知症

α(アルファ)シヌクレインたんぱくが「レビー小体」という特殊なものをつくり、脳だけでなく末梢神経を含め広く異常沈着します。

はっきりした脳の萎縮は見られないことが多く、記憶障害はアルツハイマー型ほど目立ちません。

もの忘れが増えたことを自覚していることも多いです。

認知機能障害だけでなく、パーキンソン症状などの運動障害・失神・転倒・便秘・立ちくらみなどの自律神経症状と、多彩な症状が見られることが特徴です。

パーキンソン症状は、足がすくみ最初の一歩が踏み出せない、小刻み歩行、前傾姿勢、急に止まれない、等の症状です。

時間帯や日によって頭がはっきりしている時と、ぼーっとしている時が交互に現れます。

認知症発症の何年も前から、夜中に夢を見て大声を出したり、動作を伴う「レム睡眠行動障害」の症状が、現れることが多いと言われています。

特徴的なのは、誰かが家にいると言ったり、ベッドの上に置いた衣服が動物に見えたり、幻視が具体的なことで、払いのける、逃げるといったリアクションを伴います。

同居家族を他人と言う、誤認妄想もあります。

自律神経症状として立ちくらみ・血圧変動・失神が高い割合で出現し、転倒はアルツハイマーの10倍多いと言われます。

1日に何度か転倒することもあり、施設に入所しても「防ぎきれない」ことが多いです。

施設側としては、家族にあらかじめ説明し、了解をとっておくことをおすすめします。

わかりにくいレビー小体型認知症

パーキンソン病と診断された後に記憶障害が出て来てわかったり、もの忘れでアルツハイマー型と言われた後にパーキンソン症状が現れてわかるケースもあります。

また、うつ病にも間違われ、徐々にレビー小体型認知症の症状が現れてわかることもあります。

血管性認知症

脳梗塞や脳出血などが原因で引き起こされます。

脳の血液循環が悪くなり、脳の一部が壊死して、認知機能に重要な部位に病変があると、認知症様の症状を示します。

障害される能力と残っている能力があるため、まだら認知症とも言われます。

判断力や記憶は比較的保たれていますが、多くは認知スピードが遅くなり、反応が鈍くなります。

病変の部位によってはパーキンソン症状なども現れ、転倒しやすくなります。

アルツハイマー型認知症のイメージが陽気・多弁・動きがスムーズなのに対し、血管性認知症は陰気・寡黙・反応が鈍いという、全く逆のイメージとなります。

既に生じた脳の梗塞は元に戻らないので、再発予防としての薬物治療が行なわれ、廃用防止の生活指導やリハビリも大切です。

きちんと治療すれば、認知機能が改善・維持することは不可能ではありません。

脳の動脈硬化が徐々に進行することと、加齢によりアルツハイマー病の病変が加わったりすることがあります。

前頭側頭型認知症

本来は病理診断用語である「前頭側頭葉変性症」という用語も使われます。

主に前頭葉が委縮するタイプは独特の行動障害を示し、行動型前頭側頭型認知症と言われます。

野生的・幼児的になり、我慢ができない・すぐ怒る・思い立ったらじっとしていられない、同じ行動を繰り返す(徘徊ではなく、同じ経路を何度も回る、周回)等が現れます。

側頭葉が委縮するタイプは物の名前が出て来ない(意味記憶障害)ため、意味性認知症と言われます。

対応方法が異なるため区別の必要があるのです。

記憶は比較的保たれていますが、他人の気持ちを理解することや共感ができなくなり、社会のルールが守れなくなります(社会脳の障害)

例えば「持ち去り」という症状が現れ、トラブルになります。

見つからないように品物を隠す「万引き」とは異なり、堂々と品物を見せたまま持ち去り、見つかっても謝りません。

また、物の名前がわからなくなり、「くつ」という名前と、今はいている靴が結び付きません。

名前を言えないので、記憶障害を誤解されてアルツハイマー型と誤診されたりもします。

顔を見ても誰かわからない「相貌失認そうぼうしつにん」も見られます。

進行すると

認知症の多くは、進行すると認知症状だけでなく、動けなくなる・寝たきり・尿便失禁・飲み込めない・言葉も出ないといった身体症状も現れます。

アルツハイマー型の初期は、思考や判断に関係する領域のダメージが強く見られますが、進行により運動野や感覚野にもダメージが進み、随意運動が消え、嚥下が困難になります。

レビー小体型はダメージが脳だけでなく、末梢神経にまで広がるため、パーキンソン症状に加え、失神・転倒が多くなります。

前頭側頭型認知症が進行すると、初期の過活動状態から徐々に、著しい意欲低下、自発低下になり、寝たきりになります。

高齢になるほどいくつかの種類の脳病変を重複することも多いので、アルツハイマー型とレビー小体型、アルツハイマー型と血管性認知症が合併していることもよくあります。

治療可能な認知症がある

●正常圧水頭症

1日に500㎖ほど作られる脳脊髄液の出口が詰まると、脳の周囲や脳室内に溜まり続け、認知機能が低下します。

①ぼーっとして反応が鈍い

②すり足で小股に歩く

③尿失禁

が三大症状です。

脳脊髄液を流す手術が可能なため、「治る認知症」の代表ですが、他の認知症と合併している場合は進行してしまいます。

●慢性硬膜下血腫

頭部打撲により硬膜の下に小さな出血を生じ、1~3ヶ月かけて大きくなり、脳を圧迫するため、意識障害・認知機能低下・歩行障害等の症状が現れます。

手術で血腫を除けば数ヶ月以内に元に戻るので、見逃さないことが重要です。

また、認知症の人が急に元気がなくなったりぼーっとするようになっても、慢性硬膜下血腫の可能性があります。

外傷がはっきりしなくても生じることがあるので、日常的に転倒防止のケアが必要です。

●甲状腺機能低下症

ぼーっとして反応が鈍い症状です。

血液検査でホルモン濃度を測定することで発見できます。

●慢性アルコール中毒

アルコールの多量・長期摂取は加齢に伴う認知機能低下を加速させます。

アルコール自体が神経毒であり、栄養豊富な食事を摂らず、アルコールばかり飲むことにより、認知機能が低下します。

小脳の機能障害による運動失調で、歩行がふらつきます。

●ビタミンB12欠乏症

胃潰瘍や胃がんで胃の摘出を受けた例で、ビタミンB12の吸収障害によって生じます。

認知機能だけでなく、貧血や手足のしびれ、歩行のふらつきなどの症状も現れます。

血液検査でB12濃度を測ることで、低下が判明します。

おわりに

認知症にもいろいろな種類があり、原因疾患も、ここにあげたものの他にも多数あります。

豊富な知識は大いに助けになります。

ただ何型認知症でも、私たちがケアするのは心理的・身体的・日常生活的に困難な方たちです。

大切なのは知識で終わらせず、「人」を理解すること。

認知症の方も、一人一人性格も違えば心身の状態も違います。

朝と夜で全く違う対応を求められることもあります。

相手の様子をよく見て対応していくことが、何より大切だと思います。

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